本・著者の紹介
| 書籍名 | 三人屋 |
| 著者名 | 原田ひ香 |
| 出版社 | 実業之日本社 |
| 出版年 | 2015年 |
| ジャンル | 小説 |
| ページ数 | 315 |
著者は「三千円の使いかた」や「財布は踊る」など、お金をテーマにした小説が人気の原田ひ香さん。2007年「はじまらないティータイム」ですばる文芸賞を受賞、2023年には三千円の使い方がテレビドラマ化もしたベストセラー作家です。
女性を主人公とした作品が多く、お金をテーマにした作品だけではなく、人間関係や女性の強さをテーマにした作品が多い印象を受けます。今回紹介する三人屋も「ずぶずぶ」と言ってもいいほどの濃くて愛おしい人間関係が魅力。
この作品から原田ひ香さんにハマり、著書を追いかけさせてもらいました。原田ひ香さんの作品では、他に「古本食堂」や「口福のレシピ」なども好みです。また、「喫茶おじさん」は、ハンドドリップのコーヒーを美味しく淹れられるようになりたい僕にも共感できる部分が多く、クスっとさせてもらいました。
原田ひ香さんの別の作品も、また紹介させてもらいますね!
なぜこの本を選んだのか
この作品は、最初はオーディブルで聴きました。
僕は仕事で車に乗る機会が多いので、オーディブルでもよく本を聴いています。キッチン常夜灯の書評でも書きましたが、料理の出てくる小説が好きなので「三人屋」というタイトルと、表紙のトースト、ごはん、うどんのイラストに惹かれたのがきっかけです。
橘川佳代さんの朗読も非常に合っており、三人屋の長女「夜月」のことが薄っすら好きになってしまいました(笑)
そのまま、続編の「サンドの女 三人屋」もオーディブルで聴き、文庫版でも2冊とも購入。すっかり原田ひ香さんの世界観のとりこにさせてもらった作品です。
印象に残った一節
物語の舞台はラプンツェル商店街、朝は三女の喫茶店、昼は次女のうどん屋、夜は長女のスナック、同じお店で三姉妹がそれぞれ違った業態を営む「三人屋」。
全体的には商店街の人情もの、コメディタッチで描かれている作品ですが、物語を通して三姉妹の父親の想い出に繋がるアイテムがキーになってきます。
そして、もう一度、本当の”あれ”に逢いたい、と。
別々の業態とは言え、同じお店で働く三姉妹。しかし、その関係性は良好とは言えず、特に次女の真昼は、長女の夜月と顔を合わせることも避けるほどです。
そんな三姉妹が共通して抱える父への想い出。僕も娘を持つ父親ですが、娘たちにそれほど深く想い出を残してあげられるだろうかと考えてしまいました。
感想
ラプンツェル商店街で暮らし、働く人たちの人間関係が愛おしい。三人屋の感想を一言でいうと、これに尽きます。
新宿から西に十五分の私鉄の駅だ。駅前から一キロほど商店街が続いている。閉じているシャッターも多いが、大小二十軒あまりの店があって、生活に必要な食品や日用品はたいていそろうし、隣町との間には大手チェーンの中規模スーパーもあるから買い物には困らない。けれど、その便利さがむしろ普通、ごくごく普通の印象を強くしていた。
電車に乗れば新宿まで出るのも遠くはないけれど、日常の生活を過ごしていくなら商店街で十分に足りる。だから、商店街の人達のつながりも深く、物語の舞台となる三人屋に訪れるのも、ほとんどが商店街の店主たちをはじめとした常連さんたちです。
物語では、三人屋の常連でもある商店街の面々の視点も描かれています。三姉妹とも関わりの深い、商店主や商店街の住人達それぞれの恋愛や人生がほろ苦く、でも暖かく描かれています。
とくに、長女夜月のスナックは、商店街の住人が気を抜いてお酒を飲む場として、登場人物達の本音に触れることができます。
ああ、これなんだな、と俊生は理解した。このなんでも受け入れてくれる感じ。強く否定せず、柔らかく流してくれる感じ。これがスナックの良さなんだな。きっと。いや、この人の良さなのかな。
夜月はだらしなくていい加減な、場末のスナックのママさんです。それでもなぜかみんなに愛されていて、頼られている。作品を読み終わったら、夜月のことを好きになってしまうような、不思議な魅力のある女性です。
作中では、不倫に離婚、中絶と、決して明るくない悩みを登場人物達は抱えていますが、夜月のいい加減さと軽さが中和してくれて、コミカルな読み心地になっているように感じます。
自分も商店街の一員になりたくなってしまう
都会の人からすれば、田舎にこそ、個人商店が軒を連ねる商店街が残っていると思うかも知れませんが、イオンなどの大型スーパーができた田舎の商店街には、ほぼお店は残っていません。
僕にとっても、商店街の駄菓子屋さんや本屋さんで買い物をした想い出は30年以上前のことで、今、子どもを連れて買い物に行く場所は大型のスーパーやショッピングモールだけ。
ラプンツェル商店街とそこに暮らす人たちのつながりは、ともすれば鬱陶しかったり面倒だったりするかも知れないけれど、自分も商店街の一員になって、夜月のスナックに飲みに行ってみたいと思ってしまうのです。